あっ 白鳥信也 あっ あめ ほほが 水滴を感じる 雲からちぎれ落ちた しずく 衣類からはみでたヒフに しずくる みるみるうちに勢いのついたしずくが 生垣の葉を打ち濡らし 地面をぼつぼつと叩き 地面は水の言葉でいっぱいになる 土ぼこりは雨滴と抱き合って 空気は水の匂いの通路になる 水語の空間が広がっている だから いま このカラダ このヒフは 水打ち際となる 汀の言の葉しずくる 鼓膜をしずかに濡らし 巻き貝は冷たい水に巻き取られ 吐き出した息のすきまに 水でいっぱいになった重たい空気が充満し 音もなく波立つから 騒がしい気分が耳のなかに 閉じこめられたまま ふりしぶくしずくの群れを前に 広大な水語圏を眺望するには目がかすむほどだ カワウソになって身をくねらせて 水自身をカラダにまとってみる 水の毛皮 そうすると からだの内側から呼応するものがある 身体は水だもの はりつめて まだかたい桃の実にだって 透明な果液がひそんでいる 草原のようになびく うすい桃の実のヒフにおおわれ しずく しずくる 内側で しずくは見えない水面の さざなみとなる 水平線が好きだった 西瓜の汁も 水の毛皮ってなんだ 水の尻尾もあるのだろうか よびこまれるように 流れていく水語の川 空も私も 通り過ぎて あっかぜ カラダの外を打つしずくが 大きくたわんで曲がる 私をおおう水も あっ とつぶやいて はがれていく 白鳥信也 詩集に「アングラー、ラングラー」(思潮社)。詩誌「フットスタンプ」同人、ボーダーレスマガジン「モーアシビ」発行人。 <TOP>に戻る |