緑の食卓
               蟹澤奈穂




早春の雨が通り過ぎたあと
大きな空き地に
忽然と湖は現れた
ツンドラの氷原と見まごうけれど
白い看板が建築工事の開始を告げている
どうやって察知するのか
あっというまに
鴨のコロニーがどこからかやってきて
互いに鳴き交わしながら
思い思いにくちばしを水に突っ込んでいる
きみたちね、ここはすぐに
なくなっちゃうよ

偶然 いまここにあるに過ぎない
つかのまの窪地に
あるいは高台に
ほんのいっとき暮らしているのは
私たちも同じ

二つ並んだ丘の
鉄塔と鉄塔のあいだのこの谷も
遠くから見れば
平らな食卓の
テーブルクロスの
折り目のひとすじ
そこに落ちた水滴のようなものだ

しずくは
ころがって
ころがって
いつしか
広大な緑の食卓に
にじんでゆく




蟹澤奈穂
1969年生まれ。詩集『エドマンドの懐中時計』(書肆山田)がある

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