ひととき

                            恩地妃呂子



年末の大掃除をしていたら
昔好きだった
サッカーボールが出てきた

空気が抜けたのか 少しやわらかく
皮のひんやりした 小ぶりのボール

手に持って

確か 彼の頭がこのくらいだったと
両腕で抱いた

やわらかい髪
香水のにおい
一緒にいられるわずかな時間
私の心臓の音聞こえますか
私の胸はやわらかいですか あたたかいですか

何も言わないで抱かれている頭は
背中に腕をまわして 私を引き寄せた

それを答えだと思っていた
   私のこと好きなんだって

一緒にいられるわずかな時間
確かめるように
   ずっと胸に抱いていた

昔サッカーをしていたという彼の頭は このくらいだったと
   抱きしめていたサッカーボール
少しきれいにふいて ネットに入れて
   また元のところへ戻してあげた



恩地妃呂子
1972年生まれ。詩誌「INTRIGUE」同人。


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