鍵穴探し
                       成島亜樹



  貯金していた紙幣をはたいて、金と銀に光る鍵を買う。鍵は満足
そうにわたしの掌に横たわった。ところが「対になる錠はどれか?」
と聞いても、若い女の売り子は「知らない」とそっぽを向く。
 しかたがないので、番犬の追いかけてくる公邸から、薄気味悪い
理科室の棚、ふきげんな妹の赤いオモチャ箱にいたるまでその鍵穴
をためしてみるが、わたしの購入した鍵と合うものは見つからない。
 ある晩、途方にくれながら並木道を歩いていて、何気なく空を見
上げた。藍染のような夜だった。頭をめぐらすと、教会の尖塔のう
えに、あの売り子をほうふつとさせる色白のすました三日月がかか
っていた。
 それ以来、わたしには彼女たちの鼻の穴が鍵穴に見えてしかたが
ないのだ。試せる穴も四つあるので、確率は高いのではないかと思
う。しかし乙女の鼻と、三日月の鼻、どちらを選んでも試練である。


三日月夜 成島亜樹 空気に青がとけて 部屋は満ちみちています   昨日切り落とした爪は 床の模様になっています   「あれはすでに  私のものではありません」   冷蔵庫から水を飲んで 夜空へ破片を放りました   「生きているので  私も変わってゆくでしょう」   細い月が高みにかかり 静かに世界をすくっています 成島亜樹 1978年生まれ。神奈川在住。詩集に『ベビー・ピンクの機関銃』がある。ホームページ:INNOCENCE <TOP>に戻る