良かった
年明け早々、ギャアーとかいう鳴き声で目が覚めた
ガラス戸を開けると
何とソラが
庭の真ん中でネズミ捕りみたいな箱の中に囚われていたのだった!
次の瞬間に納得
あれは隣の人が仕掛けたのだ
最近、隣の部屋に住んでいるご夫婦が(正確には旦那さんの方だけのようだが)
やはりノラ猫たちの面倒を見ていることを知った
猫たちがいつでも水を飲める鉢と
ねぐら代わりの木の箱を用意してやっている
でもって「そろそろ不妊手術を施さないと……」と思ったのだろう
業者らしき人も立っているから間違いない
ふわぁ、それじゃ寝直すかな
正直、猫たちの面倒を見ているのがぼくだけでないことを知った時は心底ほっとした
ぼくが何かの理由で引っ越さなきゃならなくなったとしても
とりあえず彼らは飢える心配はない
「もう知ーらない、バイバイ」ってのもありなわけだ
もちろんそんな気は少しもありませんけど
せっぱつまればその気にならないとも限らない
ああ、これが「飼っている」と「面倒を見ている」の違いって奴か
実はぼくだって不妊・去勢手術のことくらい考えて、実行もした
昨年の秋、目黒区が助成金を出していると知って早速申請に行ったんだ
まずはファミから
前日、猫キャリーに慣れさせるためにジェットコースターごっこをした
たかーい、たかいねぇ
首を伸ばして揺れる風景を珍しそうに眺めるファミ
そして当日、玩具代わりの洗濯バサミを放り込んだら
追っかけてあっけなく猫キャリーに飛び込んだので即チャックを締める
動物病院へは徒歩3分
ところがところがその3分の長いこと
閉じ込められた! とわかった瞬間から、鳴くわ、暴れるわ
書類に必要事項を記入している最中も力の限り鳴き続ける
翌日、手術は無事済みましたと連絡を受けた時は嬉しくて腰が抜けそうだった
傷が塞がるまで一週間入院
面会に行くと、ファミは首の周りに襟巻みたいのを巻かれて現れた
傷跡を舐めないためのものだそうだ
ぼくを見ると必死な面持ちでニャーニャー鳴く
が、目がクリクリした若い女性の看護師さんに言わせると
「ファミちゃん、とっても人懐こくて
ノラちゃんのままにしておくのはもったいないくらいです
トイレもすぐに覚えましたし、食欲もありますよ」
思わず得意な気分になってしまった
数日後、引き取りに行ったらもう結構落ち着いていて
帰宅して放すと、兄弟猫たちがすぐ迎えにきた
「お前、今までどこ行ってたんだよ」といった感じである
良かった、良かった
次はレド
レドは一旦甘えモードに入ると妙に言うことを聞くから簡単だった
顎をくすぐってからそーっと持ち上げて猫キャリーに入れる
無抵抗でじっとしているのでそのまま動物病院へ
チャックを少し開けて手を突っ込んで、頭を撫でてやりながら歩く
待合室でもおとなしくしていたが
看護師さんに引き渡す時になって、急に、強張った表情になって目を大きく見開いた
その哀願するような目が痛くて、逃げるように帰った
翌日、電話を入れると、
「手術は無事に済みましたが、レドちゃん、何だか緊張しきっているみたいですね
ご飯も余り食べてないし
ただ、オス猫ですからあさってには退院できますよ」とのことだった
水曜日、会社を定時にあがって動物病院に駆け込む
「経過は順調ですよ」と看護師さんが連れてきたレドは
騒ぎもせず鳴きもせず
怯えた顔で縮こまっているようだった
すぐに抱き取り
猫キャリーの中に手を突っ込んで一生懸命撫で撫でしながら
長い長い3分間の家路を急いだ
帰宅して放しても茫然とした様子で、体は固く、動かない
退院祝いのマグロを足元に置くと
ようやく安心した顔になってムシャムシャ食べ始めた
(いつものようにガツガツ、じゃなかったけど)
良かった、良かった
自分的に大騒ぎして
初めての猫の不妊・去勢手術に臨んだわけだけど
これって、生き物の運命を勝手にねじ曲げることになんだよね?
「かわいそうな宿なし猫ちゃんを増やさないように
餌やりする場合でも不妊手術だけはしましょう」
なんてよく言われるけど
ファミやレドがかわいそうとは思えない
食べるものがいっぱい落ちている東京で、彼らの子供が飢え死にするとも思えない
ファミの子やレドの子がうじゃうじゃ生まれても
やっていく奴はやっていくし、やっていけない奴は運命に従えばいいし
運命?
じゃ、ぼくも運命に従っただけかも
人間には絶対してはいけないことでも猫にはしてかまわないこともあるのですよ
これが市民の務め、と言われたら
とりあえずその通りにしようとする星の下に
ぼくは生まれついているのです
ソラを心配そうに遠くから眺めるファミとレドの
耳に残るV字カットは
ぼくが運命に従った証
そこから日の光がきれいに漏れて
うん、良かった、良かった
良かったね
ファミもレドも自分が何をされたかさえ知らないで
今はもう元気
食欲も旺盛だ
これからソラは良くなるし、やがてはシシも良くなるだろう
良いことに囲まれた気分は重い
それじゃこれから重い気分を抱えながら二度寝しまーす
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