机の位置
「ごめんよー」「あっ、悪い」 いろんな色の声が飛び交って 空気が濁った色合いに染め上がっている 明日は社長朝礼の日なので大会議室の机を動かす 折り畳んである長机を壇のある方向に向けて列を作るんだ 「そっち持ってくれる?」 近くにいたバイトの五十嵐に声をかけた よいしょっと持ち上げると、五十嵐の奴、意外と背が高かったんだな ぼくの持つ側がどうしても下になって、重さがぼくに偏る ま、しょーがないか 机は絶えず、ぼくと五十嵐の間で小刻みに揺れている ぼくと五十嵐とで、力の入れ方や腕の長さの点で違いがあるせいだが ぼくや五十嵐自身の内部にも 制御できない無数の力のせめぎあいがあって ぼくが前の机から少し間隔を取ろうと思いつつも意外と前の机から距離が生じていない 場所にしかも右寄りに机を下ろそうとする時 五十嵐はむしろ間隔を少し詰めようとして意外と詰め切れていない場所にしかもやはりぼ くより更に右寄りに机を下ろそうとする 結果、机は前の机の位置から「やや斜め」の位置に下ろされてしまう ぼくも五十嵐も無言のまま修正するがその修正もやはりちょっとずれている ま、しょーがないけど 考えていることは似ているはずなんだけどね 机を前の机から程よく間隔の取れたしかも前の机と平行な位置と思わ れる位置に静かに下ろす なのにこのズレはどうだ このズレがなけりゃ机運びなんて劇的に早く終わるんだぜ ふと五十嵐と目が合った 五十嵐はちょっと困惑したみたいな笑顔を作って、目をそらした その、そらした目の動きの中に 無数の力がひしめき合っている、のがわかった 五十嵐自身が一瞬のことだけど眼球の動きの中に隠れて、いなくなった 代わりに、押し合いへし合いしている姿がすっと顕れた 位置が、小刻みに動揺している (慌てたぼくの目の中にも無数の力の偏在が?)
<TOP>に戻る