佇まいって感じ
仲間で田中の結婚式の二次会のDVDを見ている
「ほんとに見ンのかよぉ」
田中は泣き声をあげたが多勢に無勢だ
田中のバカは二次会の席でぼくたち悪友に唆されて
今時学生でもしない日本酒イッキ飲みを5回もやったのだ
おかげで部屋に帰るや否や寝込んでしまい奥さんカンカンだったとか
結婚式は鎌倉のホテルで行われ、二次会はそこのバー・ラウンジだ
夜景がきれい
田中はなみなみ酒を注いだグラスを高々と持ち上げては
口をガバッと開いてイッキに飲み干す
飲み終わるとホームランを打った選手のように両手をぶんぶん振り回した
やはり酔っ払っていたぼくらが手を打って囃し立てる傍らで
にこやかだった新婦のキョウコさんの表情が次第に険しくなっていくのが
手に取るようにわかるのだ
「いやねえ、何見てるの? もう消してよぉ」
ビールを運んできたキョウコさんは顔を真っ赤にしたが
表情は険しくはない
田中はそれなりのアフターサービスをしたようだし
今はそれなりのいい思い出に変わりつつあるのだろう
おやおや、「ぼく」は何をしてるんだろう?
さっきまで田中を盛り上げていた仲間の一員だった「ぼく」は
ぷいとその輪に背を向け
とことこ窓の方に歩き出してしまった
鎌倉の夜景を見に行った?
画面の端の端に辛うじて映っているだけだからよくわからないが
外を見るより、窓のカーテンをいじったりなんかしてる
それも長くは続かない
またぷいと窓を離れると意味なく丸テーブルを一周して
ピアノに寄りかかってそれきり動かなくなってしまった、ようだ
それを誰も気づかない
慣れない着物でキメてきた田中の職場の若い女性たちのはしゃぎぶりが
次の話題の的になっているのだ
「あのコかわいいよね、ツジ、独身なんだから紹介してもらったら?」
ああなかなかいいね、と曖昧に返事しながら
ぼくは、固まってしまった「ぼく」の行く末が気がかりだ
ピアノや丸テーブルやカーテンと調和しながら
インテリアのような雰囲気を醸し出してしまいそうな「ぼく」の立像
この空間から人や音をどんどん消去していったら
「ぼく」は残った物たちと共同し
部屋の独自な佇まいを形成することになるだろう
…なんて考えてたら、「ぼく」の方がカメラの視野から消されてしまった
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