真空行動
ちょっと、と言うか、結構困ったことに ファミ、レド、ソラの3匹が家に入り浸るようになってきた 会社から帰宅する頃に3匹そろってアパートの前でぼくを待ち構えている ファミはドアを開けると同時にするっと中へ入ってきてしまうが そこまでのずうずうしさはないレドは 全速力でベランダ側に回り、大きな声で鳴きながら どすんどすん、ガラス戸に体当たりする 近所迷惑になるし開けないわけにはいかない 更にソラが、用心深くキョロキョロしながら後に続く ファミが一心不乱に室内の点検している間 残る2匹にご飯を出してやる レドはまずミルクに、ソラはまずカリカリに、飛びつくのが常 いい飲みっぷり、食べっぷりだ パトロールが終わったファミも宴に加わる 抱いて、さすって、遊んで…… 長い時間ぼくを待っていた3匹はやがて疲れて眠たくなってくる ファミは座布団、レドは押し入れ、ソラはタンスってケースが多いかなあ それぞれの寝床に納まって夢の中 規則正しい寝息が部屋の空気を温かく揺らす 何かいいよね、こういうの 家庭的っていうかさ おっと、ベランダではシシもお待ちかねだ カリカリとミルク出してやんなきゃ さて、12時半になったし、そろそろぼくも寝なきゃだな ベランダのガラス戸を開け、まずソラを、次にレドを抱えて外に出す 眠そうにしてるが、観念したようにねぐらに戻っていく ところがファミは別 昔は外に出すと元のねぐらに帰っていたのに 最近はくるっと向きを変えて再び部屋に入ってきてしまう その俊敏さたるや驚くばかり、手を放した途端脇をすり抜けていく ひえーっ、困った もうおわかりの通り、根負けするのはぼくの方なんです ファミは再び座布団の上で丸くなり はい、おやすみなさぁい ところが話はこれでは終わらない 3時を回る時分、熟睡していたファミは突如パッチリ目を覚ます (多分)大きく伸びをして、それからぼくの顔を舐めに来るだよお 車通りは少ないが人通りはそれなりにあるこの界隈 昼間は思い切り遊べないからエネルギーが有り余っているんだろう そのエネルギーを発散するために夜中に猫が「大運動会」を催すことを 「真空行動」と呼びます 丸い影が部屋の中を小走りして 棚の上にジャンプ エスカレートして置物を蹴飛ばしたり、なんてことになるとやっかいだから ガバッと起きてすばやくテキトーな服に着替えて外に出る すると嬉しそうに走ってついてくる トホホ、恐ろしいことに日課となりつつある 真夜中のお散歩ですよ 自由なノラちゃんなんだし 勝手にほっつき回ればいいものを ぼくと一緒に出かけるのがいいみたいなんだよね 草とか車のタイヤとか、気になるものの匂いを嗅ぎながら行きつ戻りつ でも絶対側を大きく離れることはない どこかの家の庭の植え込みに侵入したりして寄り道する時は ミャッミャッと短く鳴いて自分のいる位置を教えながら歩く ぼくがファミを置いてスタスタ先に歩いてしまう時も声をあげるが この時はいかにも、待ってくれーっと言わんばかりの、長い高い声だ かと思えば、急に耳をピンと立てて さーっと駆け出していくこともある 何を見つけたのか ぼくにはさっぱり感知できない何かが、そこにはある どうせならちょっと冒険させてやろうと いつもなら引き返す角を曲がってみる 未知の領域に足を踏み入れたファミは明らかに興奮気味 玄関の前の植木を前足で引っ掻いたり ガレージの奥に潜って砂をかぶったり 古い木造アパートの階段を昇ってまた降りてきたり そうこうしていると次の角にさしかかった そこには太った灰色の猫が毛を逆立てて ゥワゥーッ 一喝されてびっくりしたファミ 逃げる逃げる! あ、間違えて左の接骨院の方に行っちゃったよ 途中で間違いに気づいて くるりと方向転換、猛ダッシュ 後を追いかけて帰宅すると ファミはアパートの門の前でちょこんと座って待っていた 「恐かったよー」と頭をスリスリさせてきた 他の猫の縄張りに踏み込むとは何と恐しいことか 街の要所要所は 見えない線で厳格に区分けされている 不注意な猫がそれを踏み越えた時 センサーが作動して 突如として戦闘が始まるんだ 背中を撫で、頭を撫で、首筋をムニュムニュしてやると 安心したのか、ファミはトコトコねぐらに帰っていく さ、ぼくも本格的に寝直すぞ、もう3時45分だ でもって、次のお散歩には レドとソラがついてきたりするのでありました(トホホ)
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