聖なる印




４時前に目が覚めてしまってどうしても眠り直せない
ジョギングでもして気分を変えるか、と
Ｔシャツ短パン姿で家を飛び出した

３０分ほども走っただろうか
汗もかいたし、あのでかい公園でちょっと休憩しよう
誰もいない野球のグラウンドから心地良い風が吹いてくる

あれ、マウンドの上にヘンなモンのっかってる
何だろう……
わっ、犬のフンだわ

しっかし妙だ
ぼくは昔飼ってたから知っているのだが
犬というのはあれで結構礼節を重んじる動物で
排泄する時はわざわざ藪みたいな物陰に入る
そして排泄物には後ろ足で念入りに土をかける
まあ、単に縄張りを示すためのマーキングだって説もあるけど
いずれにせよ、こんなだだっ広い場所のまんまん中で
犬が自主的にフンをするなんてまずあり得ない
飼い主が嫌がる犬をわざわざここへ連れてきて排泄させたということか
すると……こりゃ新手のヘンタイですか？

生乾きのまだ新しいフン
ということは飼い主が犬をここへ連れてきたのはぼくが来るほんのちょっと前だ
恐らくここで飼い主さんは
華麗なフォームで目に見えない一球をシュッ
そして隣でワンちゃんも一球（笑）ということですな
マウンド近くに立ってノビをする
高揚した飼い主さんの鼓動と呼吸のバイブレーションが伝わってきて
ちょっといい気分だぞ
あっ、朝日が昇ってきた

静寂に包まれたソレ
真っ赤な光に照らし出された
グラウンドの真ん中のソレは
聖なる土地の聖なる印なり

いなくなった者たちが残した謎のメッセージ
広い空間の中でぼおっと浮かび上がっている
いくら想像してもメッセージの真意に到達できない
それはすばらしいこと
到達できない分、謎が深まり聖性が高まっていくからだ
ほんとは真意なんてないことが逆に謎の聖性を保証してるだけなのかも
おっといけない、集中しなきゃ
想像し想像し、想像し続けていると
ぼくも、聖なる印に注がれたのと同じ赤い光を浴びて
清められていく

帰る前にもう一度
聖なる土地の佇まいを見る
ぼくのこの清められた体は
シャワーを浴びたら即
２時間くらいはぐっすり眠ることができるようになるだろう
それでもってぼくは、体が眠っている隙に
聖者と聖者の犬のもとにちょっくら出かけて
メッセージの意味を聞きにいこう
その意味の余りの深さにぼくは驚き、そして納得するだろう
聖なる印の意味は
目覚めて俗世に帰ったらどうせわからなくなる
わからなくなっていいんだよ
わからなくなる分
ぼくの短い眠りは
深く深く、深くなっていくのだから