妄執?
最近の一番の悩みのタネと言えば レドをどう扱うか、これに尽きる ぼくの部屋はアパートの1階にあって 12,3坪の庭に面している レドは庭をいつもうろうろしていて 部屋に灯りがついていてぼくが中にいることがわかると 悩ましげな高い声をあげながら近づいてくる 窓にへばりついて前足で何度もガラスを叩くんだよ あー、うるさいうるさい わーった、わーったよ ファミが遊びに来た時 その傍で入りたそうにしていたレドを 「こいつも招いてやるか」と軽い気持ちで家にあげたら、こうなってしまった もともとレドはちょっと激しい性格で 撫でようと手を出すと すぐ興奮して引っかいたり噛みついたり 食い意地も張っている とにかく食べるのが早い 肉片を与えて他の猫がまだ口の中でクチャクチャやっているのに レドだけはもう飲み下し次の肉をもらおうと膝にタッチを繰り返す ママ猫のクロが食べている最中の肉を欲しがって口元を狙いにいき 怒ったクロから猫パンチを食らわされてしまう程 ベランダの戸を開けるが早いが 波打つように白い体が滑り込んでくる 黒いしっぽがピンと立っている 部屋に入ってきたレドは頭をくねらせながらいきなり全身を押しつけてくる まず冷たい鼻が手の甲に当たり ぐるぐるぐるぐる、ぼくの両脇をせわしなく往復 ヤバイ、何をしでかすか 宥めてやんなきゃ 白い豊かな毛の中に指を差し込んで 全身をさする、とにかくさすりまくる レドの毛皮は生きている雪のように純白で 毛一本一本がじっとりと指に絡みついてくる 半開きになった口から尖った歯並みが覗く 黒い斑のある頭から細い足の爪先までがうねうねと撓り 振り返った格好のレドの、いつもはまん丸い目が うっとりと細くなってぼくの目を直視 それからお尻を高く持ち上げる ピンク色の肛門からは何とも言えない臭気が立ち昇る ぼくに匂いを嗅ぐように促しているのだろうか さすがにその望みはかなえてやれない するとレドはきっとした表情になって こちらに向き直る 鼻の横にちょっとある黒い毛が美女のほくろみたいで色っぽい 飛びついてきてぼくの顎をぺろりと舐め 次の瞬間にはきつく噛ん……あ、痛っ ファミは部屋に入るとリラックスしきった態度になり ぼくに撫でられるよりも遊んでもらおうとする 遊びに飽きるとお気に入りの椅子に飛び乗って悠々毛づくろいだ ところがレドは違う 遊びよりご飯より、このぼくがお目当てなのだ 気がかりなのは 部屋に入る前よりも不安な気持ちが増幅しているように見えること だから全力を尽くして身を擦り寄せて愛撫を迫るのだろう、が 撫でさすってやっても これじゃ足りない、何か違う、全然違う レドは爪を伸ばしてしまう 痛い、けれど 急いで手を引っ込めようとすると逆効果だ 逃げ去ろうとするものには追いすがって、離さない 両前足をびゅーんと振り回してぼくの手を抱え込もうとする 爪は鋭く、内側に どこまでもどこまでも食い込み続ける レド、美しくも不安な男の子 お前はどうしてぼくの愛情を疑うのか? こんなに抱いて撫でて、ミルクも好きなだけ飲ませてやってるのにそれでも疑うのか? 思えばレドは赤ちゃんの時からママ猫にべったりだった 乳離れさせられたのが少し早すぎたのかもしれない いやいや、そんなこと言ってたら一生オッパイが必要になってしまう(笑) 実はレドの気持ちはよくわかるんだよ ファミの気持ちよりわかるくらい 不安だから不安なんだ もっともっと、と欲することは欲望が充足させられることより大事なんだ そんなの人間も一緒でしょ 感じてることを素直に表に出せるという点で レドはお利口、レドはいい子 いつまでだかわかんないけど当分の間ぼくがしっかり相手してやるから 本気でかかってきなさい 小さな箒を振りかざし 追い立てるように何とか部屋の外に出したけど ベランダの戸をわずかでもガタンとさせたらまた飛んでくるだろう 猫は音にはものすごーく敏感な動物なんでね
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