水の感触
休みの日に昼頃起き出して何となくだるくてまた寝て 夕方近くなってまた起きてようやく御飯でも食べに行こう、なんて しょーがない一日のしょうーがない時間の揺れ幅がある それがまさに今日の、まさに今なんだけど ドアを開くと、夏の外気がもわーっと入ってくる セミの鳴く音とかボールがグラブに収まる音とか 何かを燃やしているんだろう細々した煙の臭いなんかももわーっと入ってくる ぼくはその「入ってくるもの」の只中に一歩一歩足を踏み入れていく その抵抗感は途轍もなく強いもので 「入ってくるもの」を遮断し、踵を返すことを考えてしまう程なんだが こんな時間の揺れ幅を、しょーがない、なんて名づけてしまう力に押されて 改めてぼくは「出ていくもの」としての覚悟を固め、歩き出すことに なってしまっているね この時間だと開いている食堂は少ない 外のとろんとした空気の中では 「入ってくるもの」もさっきまでの抵抗感と勢いを失って 「出ていくもの」たるぼくの周りをうろうろする始末 一緒に商店街を歩いているうちに、「入ってくるもの」とふとぶつかって ぴちゃっとくっついて お互いの輪郭曖昧になっちゃった ・・・と口に出して言う 口に出して言う おっと、どこから口に出したんだっけな? 考えたことを実際に口に出して音声化してみると(ちっちゃい音量で、だけど) 首を急角度にこちら側に折り曲げている監視カメラも 口に出したことがもとで出現したように思える(あっ、カメラのことは口に出してないか) ぱしゃっ いきなり水飛沫が降りかかってきた 「おっと、ごめんよー」 花屋のおじさんがホースを手にペコペコしている 「いいですよ、そんな」 いいですよ、と口の中で小声で繰り返して すたすた歩き出して、ぱっと立ち止まった ぼくに変化の兆しが訪れている… 髪からぽたぽた垂れてくる生ぬるい雫を掌で受け止めているうち 水に打たれたぼくの肌は熱を発し 「出ていくもの」から「入ってくるもの」に転身してやってもいいか− 「入ってくるもの」として侵入すべき店を 今度は本気で探すことになる
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