暗い穴
CDを買いに行ったら、お盆だからか売場は結構空いている
こりゃラッキー
ラテン音楽のコーナーに足を運び
ああでもないこうでもないと、いつもより時間をかけてじっくり探す
一心に新譜を点検していると
少し横で、汚れた前掛けをつけた女のコがぼくの動きを盗み見しながら納品している
CDを箱から出しながら時々キッとしたきつい視線を投げつけてくる
ははん、客が少ないと思ってこの機会に溜まってた仕事を一気に片づける気だったんだな
小売店の従業員は、盆だ正月だといっても簡単には休めない
「今日くらいは定時にあがってデートの時間に遅れないようにしなくちゃいけないのに」
なんて、イライラ考えているのかしら?
そう思って改めて店内を見渡すと
労働者の姿がポツンポツンと薄黒く点在しているのに気がつく
こいつら、買い物の楽しい気分を吸い込む、労働の暗い穴だね
リフレッシュの素を求めにCD屋に来たのに
点在するプチ・ブラックホールを観測してしまった
サッと一枚選んで隣の民謡のコーナーに行って息を潜めていると
さっきの女子従業員はぼくが立っていた場所にサッと移動するや否や納品を始めた
そりゃもう、カチャカチャ音が聞こえるくらい、すごいスピードだ
終わると奥からもう一つ重そうな箱を(片膝の助けを借りつつ)ヨイショと運んできて
またすごい勢いで納品を始める
お前はラテンのリズムを沈黙の中に引きずり込む暗い暗い穴
お前みたいなヤツが担当してるからラテンの品揃えが悪いんだよ、と叫ぶ胸の内の声を
まあまあ、となだめて、ジャズのコーナーをしばらくぶらついて
レジへ向かう
しばらく並んでぼくの番がくる
「2575円ちょうだい致します」と笑顔で声をかけてくるのは
なんとさっきのコじゃないか!
うってかわってやたらニッコニッコした顔をしているぞ
納品も無事終了したし、レジ番を勤めれば多分6時かそこらには帰れるんだろう
クレジットカードで支払ってサインする時
胸ポケットに挿していたキティちゃんのボールペンをサッと貸してくれた
あ、ありがと
帰りのエレベーターでずんずん下降するぼくの意識には
納品を続ける暗い穴、としてのあのコの姿が
既に、懐かしいもの、として浮かび上がっている
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