きれい
傘を差して図書館に本を返しに行った後、ふと思いついて
多摩川まで足を伸ばしてみることにした
あそこはぼくのお気に入りのお散歩コースでね
6月生まれのせいか雨の日に出歩くことが嫌いじゃない
…そう言えば、明日で40歳になるんだな
多摩川駅を降りて3分も歩くともう川べり
対岸で釣りをしてるおじさんが一人二人いる他はさずがにしーんとしている
雨の針が降り注ぐと
刺されたところから川の肌は同心円状に輪を作って答えるのだった
それら無数の輪一つ一つの歪み具合の微妙な違い
雨と川が絶え間なく確かな応答を繰り返していることがわかる
小石を蹴飛ばしながら川べりを歩き続けていくと
黄色の雨ガッパを着た小さな男の子二人を連れた若い女の人に出会う
子供たちは水面で背を翻す魚に驚いて何度も川っぷちまで駆け寄ろうとするのだが
その度に女の人は叱って道まで呼び戻すのだった
すると子供の一人は今度は飛び跳ねているカエルに夢中になって
捕まえようとして転んで手を泥んこにしてしまう
女の人が「だから言ったじゃないの、走らないのって」と怒る側から
もう一人は「ママ、ほら、おさかな」と叫んでまた川っぷちまで突撃していく
それでやっぱり転んで泥んこになって…あ、泣き出しちゃった
困ったもんだね
だけど雨の日だからといって家にじっとしていられなかったんだよね
じっとしていられない子供たちを見ていると
おかあさんもじっとしてはいられなかったんだよね
きっと後先考えないで泥んこになることが親子の幸せってことなんだろう
そうさ、
つまり、
「ぼくの体は、
子孫を遺さない、きれいな体なのだ」
「ぼくの体は、
子孫を遺さない、きれいな体なのだ」
小石を蹴飛ばし蹴飛ばし、ぎりぎりまで川に近づいてみる
絶え間ない応答に目を凝らし、耳を尖らせる
水と水はすぐに同化し、汚れを作らない
形の違う波紋が次々目を覚まし
たまたま通りがかったぼくの意識を見上げては
瞬く間に消え去っていく
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