語ることはない
温泉につかった後、ビリヤードをやりに行った友人たちと別れて
一足先に部屋に戻る
いい旅だったな、明日は東京か
ベランダに出る
遠くに灯台が見える−
きっかり等間隔で明滅する光線を見つめていると
何も語ることはない、何も語ることはない、
ただ
それだけのことを
繰り返し繰り返し語っているように思える
ははっ
ぼくだって、何も語ることはないんだよ
では、それを言葉ではなく、体で示してみなさい
よっしゃ
海の保安をしている人たちの迷惑になっちゃいけないからね
あの海を照らす灯台ではなく
ぼくの瞳に映っている小さな小さな灯台に
ぼくは白い光の球になって近づくことにした
厚みのない灯台の外壁に沿ってつーっと昇っていく
まばたきによって何度も中断されながら
ぼくは光源のある最上階に辿り着く
光源から発せられる光にすっと混ざり
等間隔で明滅した
すると
実際に
語ることはなかった
ぼくは何一つ照らしてなどいず
暗い闇の中で熱を持たない体が明滅していただけだった
何も語ることはない、ということを体で示した
ぼくはぼくの瞳の中で
しばらく等間隔で明滅したのち
明滅から消滅に移行して
ぼくからも忘れられていくだろうが
何も語ることはない
ぼくはぼくを瞳に収めたままベランダから離れ部屋に入り
あいつらいつ頃ビリヤードから戻ってくるんだろうなんて考えながら
冷蔵庫から缶ビールを取り出すだろうが
何も語ることはない
本当だ
本当だ
何も語ることはなかった
何も語ることはなかった
だから
何も語ることはないということを体で示したんだ
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