橋から橋へ
2011年3月11日金曜日に東北地方で地震が起こった
オフィスもぐらぐら揺れた
最初はまたか、と思ったが揺れが長いので不安になった
ネットを通じて津波の被害が甚大だということを知った
会社から帰宅命令が出た
JRが止まっていたので五反田から祐天寺まで目黒川沿いに歩いて帰った
途中コンビニでカップ酒を買った
ほろ酔い気分で家に辿りついたら、テレビは地震の報道一色だった
週明けの月曜日、出社すると余震があり電車の運行が不安定だという
また帰宅命令が出て歩いて帰った
ちょっと早足で歩いたら50分しかかからなかった
そして今日
余震は治まり始めたが
今度は福島第一原発の事故が深刻化して電力不足だという
ビルが停電になるので帰宅せよとのこと
電車は動いていたが
寒くないし、運動不足を解消できるし
歩いて帰ることにした
市場橋
……
亀の甲橋
……
橋から橋へ、黙々と歩く
4月になったら桜が咲いてきれいなんだろうが
今は黒々とした川の流れがあるばかりでね
微かにむっとくる臭い
それも含めていい感じだ
被災地の人のことを思うと胸が張り裂けそうになるが
勤務が途中で打ち切られて
混雑した電車に揺られることもない
ぽっかりあいた時間に
安楽椅子のように腰掛けて
大きな解放感に安らいでいる自分に驚く
太鼓橋
……
目黒新橋
……
ふれあい橋
……
田道(でんどう)橋
……
橋の名前が
次々と目の前に現われては
黒々とした流れの中に姿を消していく
暗いから橋自体はよく見えないんだ
歩き去ってしまえば名前も忘れる
でも名前から立ち上がるイメージが
マッチの火みたいに
わずかの間だけど辺りをシュッと照らすでしょ?
ほら、太鼓橋なんて
ポーンという突き抜けるような響きが聞こえてくるような気が……
しないよ、しない、しない
中里橋
……
なかめ公園橋
……
川沿いの遊歩道から山の手通りに出る
小さな広場で中年の男が飼い犬にフリスビーの練習をさせていた
シューッと黒い円盤が空を走ると
しなやかにくねる黒い影が飛び出して、パクッ
上手にキャッチするもんだな
シバワンコは身体能力抜群だな
節電のために街全体が照明を落としていて
中目黒駅周辺はうすぼんやり
正直、この程度が丁度良い
通り過ぎてきた幾つもの橋の記憶と
釣り合うくらい微かな明るさだ
ぼくも黒い影になって
街の色に同化することにしよう
何かさあ
襲来した宇宙人にやられちゃったって感じ
災害との戦いは始まったばかりというのにね
信号が点滅する横断歩道を急ぎ足で渡って駒沢通りを登る
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