誰?
新しくできたコンビニに行こうと通りを歩いていたら ふと左右から睨みつけてくる力を感じた 右は中華料理屋があった場所 左は古本屋があった場所 どちらの店も3年前に消え失せている そしてその後どちらの跡地も空地のままだ 中華料理屋は夜遅くまでやってたから仕事帰りによく立ち寄った 10時頃、がらんとした店内でスポーツニュースを相手に食事していると 人類が絶滅して1人生き残っちゃった、みたいな 妙に晴れ晴れとした気分になったものだ 人類絶滅の後もテレビだけは作動しているといい 古本屋はすごく小さな店で、置いてあるのはマンガとエロ本ばかりだった ぼくはマンガとエロ本を交互に手にとって 立ち読みしたりしなかったり、買ったり買わなかったり 店のおやじさんと目を合わせたり合わせなかったり そんな微妙なリズムが心地よく感じられる店だった BGMは流れてなかったけど 中華屋に入っている時に古本屋のことを考えたことはなく 古本屋に入っている時に中華屋のことを考えたことはない 2つの店を一緒に考えたのは 今日が初めてだ ここらで過ごしたぼんやり霞むような時間の断片の数々が 靴の中に入った小石のように 急に痛く感じられてきたり 夜空に輝く星は 実際は何百年も前の光が長い旅をしてやっとこの地球上に届いたもの それに比べるとだいぶスケールは落ちるけれど 3年前に祐天寺商店街の端っこから発せられた2本の光が 今、ぼくの思考の中枢を貫いて 結び合って絡み合って ぼくを通りの真ん中に釘付けにしていることも やはり奇跡と呼ばないわけにはいかないでしょう、ん? 自動車がきた ……一瞬ちょいと避けて、はい、また通りの真ん中に戻りましたよ さて、問題 中華屋のあった右側か、古本屋のあった左側か ぼくはどちら側に寄ったでしょう でも寄られなかった方に恨まれるのがヤだから 答えは教えないよ 実はさっきからちょっと困ってるんだ 左右にぽっかり空いている、親しかった者のいた穴 その穴からの視線は たいしてものも見えないくせに ぼくに絡みつき、ぼくを呼びとめ 新しくできたコンビニに行かせまいとしてるんだな 2人(?)とも死んでいるからぼくを引き止める程の力はない 早足で突っ切ってしまってもいいんだけど 情が移ってしまっているから もう少し、もう少し、ここに立っていよう…… ああらら 中華屋と古本屋が混ざったごちゃごちゃした空間が できあがっちゃったよ、ムク、ムク、ムク、 ところで 右と左のあんたたち、ほんとは誰?
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